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【授業実況】2025/07/23 化学平衡(2日目)/電離平衡の復習と加水分解・緩衝液の導入
はじめに
電離平衡を基礎に、加水分解と緩衝液の入口まで進めました。
本講では、前半で弱酸の電離と電離度αの扱いを復習しました。濃度や温度によりαが変化することを確認し、1−α≒1の近似が破れる場面を具体的に指摘しました。
後半では、水の電離を含む[H⁺]の求め方を二次方程式として解く流れを示しました。中和反応の熱と平衡移動の関係を押さえ、加水分解の定義と定数の関係式(Kh=Kw/Ka)を導出しました。
本論
📘 1. 電離平衡の復習と電離度α
弱酸(例:酢酸)の電離度αは濃度と温度に依存します。一般にαが十分小さいときは1−α≒1と近似できます。
ただし、αが0.05を超えるような場合や、問題設定上αが0.15程度になる場合は近似できないことがあります。このときは二次方程式を解く必要があります。
濃度が小さくなるほど電離度は大きくなります。空いた車両に人が入りやすいイメージと同じです。濃度が大きいほど混み合い、新しい粒子が入りにくく、電離度は小さくなります。
> よくある設問:濃度と電離度の関係グラフの選択。概形の理解が重要です。
📘 1-1. 弱酸のより正確な表現
弱酸HAの電離は、周囲の水分子の関与まで含めて
HA + H₂O ⇄ H₃O⁺ + A⁻
と書く方が現象に忠実です。学習では簡便に
HA ⇄ H⁺ + A⁻
を用いることが多いですが、入試で前者の書き方を指定されることがあります。
📘 1-2. 平衡定数の整理と導出の筋
化学平衡では「前・反応・平衡時」を整理します。
Kc(濃度平衡定数)、Kp(圧平衡定数)、Ka(弱酸の電離定数)です。水の濃度は溶液に対して非常に大きいので一定とみなし、式の一定因子をまとめてKaと置きます。
平衡表(初期→変化→平衡)を作ると、弱酸の典型近似下で
Ka = Cα²
が得られます。暗記ではなく導出の筋を理解しておきます。
[H⁺] は
[H⁺] = Cα
より、
pH = −log[H⁺]
で求めます。
📘 2. 水の電離と[H⁺]の二次方程式(近似不能時)
塩酸由来の[H⁺]が約10⁻⁵ mol/Lのときは、水の電離由来の10⁻⁷ mol/Lと桁が2つ以上違うため無視できます。
一方、100倍に希釈して塩酸由来が1.0×10⁻⁷ mol/Lになった場合は無視できません。このときは水の電離由来をa mol/Lとおき、
全[H⁺] = a + 1.0×10⁻⁷
と表します。
水のイオン積は25 ℃で
Kw = [H⁺][OH⁻] = 1.0×10⁻¹⁴
です。上の全[H⁺]と[OH⁻] = Kw / [H⁺]を用いると二次方程式が立ちます。解の公式でaを求め、物理的に不適な解(負の値)を棄却します。最後に全[H⁺] = a + 1.0×10⁻⁷ を計算します。
> 本講で扱った設定では、全[H⁺] = 1.6×10⁻⁷ mol/Lになりました(計算過程は[図1])。
📘 [図1] 計算展開
📘 3. 中和反応の熱とpH・温度依存
中和反応は一般に発熱反応です。1 molあたりの発熱量はおよそ56 kJ/mol程度です。
反応式の向きを逆にすると吸熱反応になります。水の電離は吸熱反応として扱います。温度を下げると、ルシャトリエの原理より平衡は発熱方向(逆向き)へ移動します。
その結果、低温では電離が抑えられ、[H⁺]が減少し、中性の水のpHは25 ℃の7よりも大きくなります。
📘 4. 加水分解:定義と定数の関係
弱酸の塩(例:酢酸ナトリウム)を水に溶かすと、酢酸イオンが一部水と反応してOH⁻を生じるため、溶液は塩基性を示します。これが加水分解です。
平衡式を書き、水の濃度を一定とみなすと、加水分解定数K₁(ここでは便宜的にKhと表記)を導入できます。弱酸の電離定数Ka、水のイオン積Kwとの関係は
Kh = Kw / Ka
です。加水分解の割合hが十分小さく、1−h≒1と近似できる条件では
h ≈ √(Kh / C)
が成り立ちます(導出は[図2])。
📘 [図2] 加水分解の導出
💡今日の学び×思考のヒント
- 近似の可否はαの大小で判断します。α≳0.05では2次方程式に戻します。
- 種々の平衡定数(Kc, Kp, Ka, Kh, Ksp, Kw)は「一定因子をまとめたもの」という視点で統一できます。
- 温度変化は吸熱・発熱の向きでpHに影響します。水の電離は吸熱として扱い、低温ではpHが7より大きくなります。
演習問題(完全展開+類題)
📘 演習1:水の電離を無視できない希薄強酸
条件
塩酸由来の[H⁺]が1.0×10⁻⁷ mol/Lの水溶液を考えます。水の電離をa mol/Lとします。25 ℃でKw = 1.0×10⁻¹⁴です。
求めるもの
全[H⁺](= a + 1.0×10⁻⁷)
解法(計算過程を段階的に全展開)
- [OH⁻] = Kw / [H⁺] = 1.0×10⁻¹⁴ / (a + 1.0×10⁻⁷) です。
- 水の電離で生じる量は等しいため、a = [OH⁻] を用いて
a = 1.0×10⁻¹⁴ / (a + 1.0×10⁻⁷) - 両辺に (a + 1.0×10⁻⁷) を掛けて整理します。
a² + (1.0×10⁻⁷)a − 1.0×10⁻¹⁴ = 0 - 解の公式でaを求めます。
a = { −(1.0×10⁻⁷) ± √{(1.0×10⁻⁷)² + 4×1.0×10⁻¹⁴} } / 2
= { −1.0×10⁻⁷ ± √(5.0×10⁻¹⁴) } / 2 = { −1.0×10⁻⁷ ± (√5)×10⁻⁷ } / 2 - 正の解のみ採用し、a ≈ 0.60×10⁻⁷ mol/L です。よって
全[H⁺] = a + 1.0×10⁻⁷ ≈ 1.6×10⁻⁷ mol/L
結論
pHは −log(1.6×10⁻⁷) です(ログ計算は有効数字の指示に従います)。
📘 つまずきポイント(続き・簡潔版)
「100倍希釈で1.0×10⁻⁷になったら無視できない」の数式確認
強酸由来の[H⁺]が1.0×10⁻⁷ mol/L、純水由来がKw/[H⁺]=1.0×10⁻¹⁴/1.0×10⁻⁷=1.0×10⁻⁷ mol/Lで同程度になります。寄与が同じ桁なので水の電離を無視できません。
符号選択の理由を一言で
a²+(1.0×10⁻⁷)a−1.0×10⁻¹⁴=0 の解は
a={−1.0×10⁻⁷±√((1.0×10⁻⁷)²+4×1.0×10⁻¹⁴)}/2
となり、√の項が1.0×10⁻⁷より大きいため「+」のみが正です。負の解は物理的に意味がないため棄却します。
最後のチェック(必須)
解いたら必ず全[H⁺]=a+1.0×10⁻⁷ を計算します。今回 a≈0.60×10⁻⁷ より、全[H⁺]≈1.6×10⁻⁷ mol/L。
妥当性チェック:1.0×10⁻⁷<全[H⁺]<2.0×10⁻⁷、pH=−log(1.6×10⁻⁷)≒6.80 と弱酸性で矛盾しません。
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