
Image credit: Smokefoot, CC BY-SA 3.0, Wikimedia Commons
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ゴムは、なぜ「便利になれなかった」のか
――天然ゴムの弱点と、加硫・合成ゴムが生まれた理由
ゴムは「よく伸びて、よく弾む」素材として知られています。ところが、最初から万能だったわけではありません。むしろ天然ゴムは、夏はベタつき、冬は固くなってひび割れるなど、扱いにくい欠点を抱えていました。
それでも現代では、タイヤから日用品まで、ゴムは社会の土台に入り込んでいます。ここには、天然ゴムの性質を理解し、欠点を改良し、さらに代替品まで作り出してきた流れがあります。
この記事では、授業で扱った「ゴムの基礎知識と歴史」を、性質→欠点→改良→合成への順でつなげ直します。
1.入口:天然ゴムはどこから来るのか
天然ゴムは、ゴムの木の樹皮に傷をつけたときに出てくる白い乳液から得られます。この乳液はラテックスと呼ばれます。
ラテックス(latex)は「液体・流れるもの」といった意味をもつ語に由来するとされ、まさに見た目通りの名前です。
ラテックスに酢酸などを加えると固まり(凝固)、乾燥させると**天然ゴム(生ゴム)**になります。
ここまでは「経験的にやってみたら分かった」タイプの技術として理解できます。現地の人々が“化学”を体系として知らなくても、材料を扱う中で方法が蓄積されていった、という見方ができます。
2.天然ゴムの正体:イソプレンがつながった高分子
天然ゴムの主成分は、イソプレンが付加重合してできた高分子(ポリイソプレン)です。
イソプレンは、天然ゴムを乾留(空気を遮断して加熱)すると熱分解で得られる無色の液体として登場します。構造は、
- 2-メチル-1,3-ブタジエン
です。
ここで重要なのは、イソプレンが「二重結合を2つもつ(ジエン化合物)」だという点です。二重結合があるからこそ、付加重合で鎖が伸びていきます。
また、命名の話も授業では扱いました。イソプレンという名前は「同じ」「枝分かれ」といった語感と結びつけて紹介されていました。名前だけで完全に構造を当てるのは難しくても、「イソプレン=分岐をもつジエン」というイメージは、後の合成ゴム理解の足場になります。
3.ゴム弾性の核心:シス型が「丸まれる」から伸びる
天然ゴムが弾むのは、単に「柔らかいから」ではありません。
天然ゴムのポリイソプレン鎖は、シス型の配置をとりやすく、分子鎖がくるくる丸まりやすい構造になります。丸まった鎖は、引っ張ると伸びます。そして力を緩めると、また元に戻ろうとします。これがゴム弾性です。
一方、トランス型は鎖がまっすぐ並びやすく、丸まりにくいため弾性に乏しく、硬いプラスチック状の性質になりやすい、という整理になります。
ここは図があると一気に理解が進む部分です。教科書の図(シスとトランスの並び方)を見ながら、次の対応を固定すると崩れにくくなります。
- シス型:丸まる → 伸び縮みできる → ゴム弾性
- トランス型:並ぶ → 固くなりやすい → 弾性が弱い
4.天然ゴムが使いにくかった理由:二重結合が「反応しやすい」
天然ゴムは、便利な弾性を持つ一方で、致命的な弱点がありました。
それが**老化(劣化)**です。天然ゴムは空気中の酸素と反応しやすく、時間が経つと性質が変わってしまいます。特にポイントは、
- 二重結合がある部分は反応しやすい
- 酸素と反応すると、元の「伸び縮みしやすい構造」が保ちにくくなる
という流れです。
この結果として、天然ゴム製品は
- 夏:ベタつく
- 冬:固くなってひび割れる
といった扱いにくさを示し、「当初は利用価値が低かった」という評価につながります。
5.改良の決定打:硫黄で“橋”をかける加硫
天然ゴムの欠点を大きく改善したのが、加硫です。
加硫とは、天然ゴムに硫黄を数%加えて加熱し、分子鎖どうしをつなぐ架橋構造を作る操作です。これにより、
- 弾性
- 強度
- 耐久性
が大幅に向上します。
授業では、1839年にチャールズ・グッドイヤーが発見した、という歴史の位置づけも扱われていました。教科書では「成功が一瞬」に見えることがありますが、実際には試行錯誤や偶然が絡む逸話が伝わっている、という点も紹介されていました。
ここで押さえるべき理解はシンプルです。
- 天然ゴム:鎖が独立していて、温度や酸化の影響を受けやすい
- 加硫ゴム:鎖と鎖が“橋”で結ばれ、形が安定しやすい
「架橋構造」という言葉が、単なる用語暗記で終わらないように、“橋をかけて動きすぎを止める”というイメージで固定するのが有効です。
6.硫黄を増やすと別物になる:エボナイト
加硫では硫黄を数%程度使いますが、硫黄を30〜50%まで増やして長時間加熱すると、黒色の硬いプラスチック状物質ができます。これがエボナイトです。
用途としては、ボウリング球や楽器のマウスピースなどが代表例として挙げられます。
同じ「ゴムを硫黄で処理する」でも、硫黄量が変わると性質が大きく変化する、というのがこの話のポイントです。
7.合成ゴムが必要になった理由:性能より先に“供給”が崩れる
合成ゴムの開発は、「天然ゴムより良いものを作りたい」という性能競争だけで始まったわけではありません。
大きな背景として、天然ゴムの供給源が東南アジアに偏っていたことが挙げられます。供給量や価格が不安定になると、社会全体が影響を受けます。さらに、第一次世界大戦期のように国際情勢が不安定になると、必要物資が入らないこと自体が問題になります。
そのため、天然ゴムの代替として合成ゴムを作る流れが進みました。授業でも、戦時期の需要が開発を強く押した、という見え方が示されていました。
8.代表的な合成ゴム:BR/CR/SBR/NBR
授業では「略称を覚える」「構造式を見ずに書けるように練習する」が到達目標として明確に置かれていました。ここでは、それぞれを役割で整理します。
ブタジエンゴム(BR)
- ブタジエン(1,3-ブタジエン)が重合したゴム
- 天然ゴムに類似の性質を持つ、と整理されます
- 合成ゴムの“土台”として登場しやすい存在です
クロロプレンゴム(CR)
- ブタジエンに似た骨格で、置換基にClを含む側に寄せた理解ができます
- デュポンが開発し、当初はネオプレンと呼ばれた、という歴史が扱われました
- 耐油性・耐老化性・耐寒性・耐摩耗性などで天然ゴムより優れる、という位置づけです
スチレンブタジエンゴム(SBR)
- スチレンとブタジエンの共重合体
- 「二重結合をもつ単量体どうしがつながる」という見方ができると、構造理解が崩れにくくなります
アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)
- アクリロニトリルとブタジエンの共重合体
- 耐油性に優れる、という性質が強調されていました
- 略称がなぜNBRになるか(N:nitrile、B:butadiene、R:rubber)の感覚が持てると、暗記が軽くなります
9.特殊ゴム:シリコーンゴムとフッ素ゴムは「主成分が違う」
合成ゴムの中でも、さらに性質を尖らせたものが特殊ゴムです。
シリコーンゴム
- 炭素の代わりにケイ素を主成分とする
- 耐熱性・耐寒性に優れる
- 用途例として、哺乳瓶の乳首などが挙げられます(「柔らかいのに環境に強い」という方向性)
フッ素ゴム
- フッ素を含み、特殊用途に用いられる
- どこに使われるかは、教科書や図説の写真で確認するのが効果的です
10.途中で崩れる典型パターンと対処
ゴム分野は「新概念が少ない」一方で、途中で崩れるポイントもあります。典型例をまとめます。
- イソプレンの構造が曖昧なまま進む
→ 2-メチル-1,3-ブタジエンに戻し、二重結合2つを確認します。 - シス/トランスと弾性の対応が逆転する
→ 「シス=丸まれる=弾む」を固定し、図で復元します。 - 老化の原因が“ただ古くなる”で止まる
→ 二重結合が酸素と反応しやすい、という化学的理由に戻します。 - 加硫が“硫黄を混ぜるだけ”になる
→ 架橋構造(鎖をつなぐ橋)ができ、性質が安定する、までセットで押さえます。 - BR/CR/SBR/NBRの略称が記号に見える
→ 元の単量体名(butadiene / chloroprene / styrene / acrylonitrile)に戻して意味をつなげます。
11.まとめ:ゴムの歴史は「欠点→改良→社会要請」の連続です
ゴムは、ただ便利な素材として登場したのではありません。
- 天然ゴムは弾性を持つが、老化しやすく扱いにくかった
- 加硫によって架橋構造が生まれ、実用品としての安定性が手に入った
- 供給問題と社会要請が合成ゴム開発を強く押した
- 合成ゴムは単量体の組み合わせで性質を設計し、用途が分化した
この流れがつながると、BR/CR/SBR/NBRの暗記も「点」ではなく「線」になります。
最後に、授業での到達目標をそのまま作業目標に落とすなら、次の2点に集約できます。
- 主要合成ゴムの構造式を、何も見ないで書けるように練習する
- 略称(BR、CR、SBR、NBR)を“単量体に戻して”覚える
ここまでがつながったとき、ゴムは「覚える章」ではなく、「改良の論理で読める章」になります。
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